北極海には不思議な場所があります。毎年、観測を行っている秋季に、よくクジラや海鳥を見かけるアラスカ州・ホープ岬沖の海域です。
これまでの観測結果を詳しく調べてみると、その海域の海底60m付近の水は濁っていて、酸素濃度が低く、植物プランクトンの栄養となる成分 (栄養塩)の濃度が高いことが分かりました。
海底や海中に生物がたくさんいることも分かっています。このようなことが、クジラや海鳥が集まってくることと関係していると考えられ、この場所は生物のホットスポットと呼ばれています。詳細は、以下をご覧ください。
- 北極海の豊かな生態系を育む植物プランクトンの通年の生物量変化を初観測
- 北極海のホープ海底谷が、天然の栄養貯蔵庫となって生き物を支えていた!(前編)
- 北極海のホープ海底谷が、天然の栄養貯蔵庫となって生き物を支えていた!(後編)
2016年9月1日 (日本では9月2日)、気温5℃、冷たい風が吹きすさぶ中、我々は生物のホットスポットに係留系(水温・塩分・酸素・濁度・植物プランクトン量を計測するセンサーや流速計などを取り付けた海水中の観測システム)を設置しました。
北緯68度、西経168度50分の場所です。1年後、またこの場所を訪れ、係留系を回収し、データを集めます。データから、この場所の海洋環境の季節変化と生物のホットスポットとの関係を詳しく調べたいと考えています。
どうか1年後、無事係留系が回収されますようにと祈りつつ、我々は生物のホットスポットを後にし、さらに北上して観測を続けます。
西野(JAMSTEC)