北緯75度東経177度付近での観測を終えた本船は観測しながら東に航行し,西経168度50分付近を南下し始めました。いよいよ帰路に差しかかったなぁ,という感じです。

ここまで何度か荒天に遭遇しながらも順調に調査ができてきたような気がするのも,主席研究員の西野さんはじめ,航海を安全に遂行してくださる船員さんのお陰さま。。。と余韻に浸りそうでしたが,まだ調査は続くので気を引き締めていかなければ。(日本海洋事業の技術員さんが作成した地図に筆者が加筆したものです)

 

さて,これまで忙殺されて筆者(杉江)の研究について触れていなかったので簡単にご紹介します。

夏の北極海の海氷はここ20年くらいの間,多少の違いはありますが,面積が小さくなっております。これは地球全体の平均気温の上昇が強く影響していると考えられております。

また,我々の人類の活動から排出される二酸化炭素が海水に溶け込むことによって,海の表面は少しずつ酸性側に傾きつつあります。このような環境の変化に対して海の生態系がどのように応答するのかを知ることは,海を利用している人類にとって重要な課題と言えます。北極海も例外ではなく,温暖化と酸性化が進行していることが知られていますが,そこに生息する生物がどのように応答しているのかはほとんど知られておりません。

そこで筆者は,海水の温度と二酸化炭素濃度を操作し,海洋生態系の基盤であるプランクトン群集に対する影響を調査しております。船の甲板に設置した水槽(左手前)と恒温循環装置(緑のカバーで覆われています)で水温を精度よく制御しております。

水槽の中に見える白い箱にプランクトンを含む海水が入っており,海水の二酸化炭素濃度変えてあります。今航海では9日間,プランクトンを培養し,温度や二酸化炭素の違いでどのように応答したのかを調査します。試料のほとんどは船から降りた後に陸上の実験室で分析するため,ここでは培養していた植物性のプランクトンの写真をいくつかご紹介します。

北極海の南側にとても多く見られたのはChaetocerosという属名をもつ珪藻類でした。小さな細胞が鎖状に連結して群体となっているため棒状やリボン状に見える。

Chaetoceros concurvicornisあるいはChaetoceros convolutusの暗視野画像。亜寒帯(北海道や東北沖)から北極海まで広く分布。

Chaetoceros diadema。北極海の陸棚域に頻繁にみられる種類。亜寒帯にも普通にみられる。

Thalassiosira nordenskioeldii。直径0.03 mmほどの薄い円柱(横から見たもの)が連結している。この種類もまた亜寒帯から北極海まで広く分布している。筆者の修士論文および博士論文で大活躍してくれました。

Coscinodiscusという属名の大型珪藻。大型と言っても直径は0.2 mmほど。多くの珪藻類は0.01~0.03 mm程度なのでとても大きい。大きい珪藻類は「数」が少ないが,「量」という観点では重要になってくる。

最後は渦鞭毛藻という仲間のCeratium(あるいはNeoceratium)。この写真の種は世界中,熱帯から北極まで,沿岸から外洋までどこにでもいる。このようにどこにでもいる種を汎存種といいます。

文責:JAMSTEC・杉江