北極の研究者シリーズ、今日は三井さんと同じく研究生という立場で乗船している九州大学の鳥羽瀬世宇さんです。

鳥羽瀬さんは現在修士1年で、ユーラシア大陸から北極に侵入する低気圧をコンピュータモデルを利用して研究するという仕事をしています。

それでは鳥羽瀬さんよろしくどうぞ!

なぜ北極域に興味をもったのですか?

実は当初、研究室に入った時は日本近辺の研究をするつもりで、北極にはそれほど興味をもっていなかったのですが、指導教官に相談したところこの北極航海のことを聞き、にわかに興味がわいてきました。

北極なんて普通はとても行ける場所ではないので、「乗ってみるかい?」と聞かれて、即答で「行きます!」と返事をしました。

実際にやってきて、北極に対するイメージはなにか変わりましたか?

北極というと、極寒をイメージしてしまいますが、夏の北極の気温は日本の冬と同じ程度。普通の人が想像しているよりは温かい季節にやってくることができました。

みらいが海氷との接触を避ける耐氷船ということもあって、海氷の開いた海域を航行することになるわけですが、それでも果敢に海氷の間をすりぬけて、氷に囲まれてしまいながら航行していくところが本当にすごかったです。

北極の天気で晴れが少ないというのも驚きでした。私は生まれも育ちも九州なので、天気といえばどちらかというと晴れの体験が多く、日本海的な雪や曇りの天候は初めてなのです。

低気圧の研究をされているということですが、低気圧の何が面白いですか?

低気圧と一口にいっても、それが気候に影響するしかたはさまざまです。低気圧は風で海氷を動かしたり、海から熱を奪って凍らせることもあります。でも逆に、凍った海は低気圧に熱を与えませんので低気圧がなかなか成長しないなど、氷の分布が低気圧の動きを決める部分もあるのです。

これを氷と低気圧の相互作用といいますが、大きく広がっている海氷が大小の低気圧と相互作用する様子は、小さいスケールから大きなスケールまで多種多様です。

そして実のところ、北極における低気圧の直接観測はほとんどありません。これほど大きな役割を演じているのに、観測例が少ない現象を直接みることができるのが、今回の航海の大きな魅力だと思います。

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もともと災害について勉強することに興味をもっていたという鳥羽瀬さん。気象災害や大雨についての興味から、この分野を選んだそうです。

実は北極の低気圧は、アラスカやロシア沿岸に大きな被害をもたらすことでも知られています。そして最近の温暖化によって、低気圧の強さは強まっているともいわれていますが、実際のところはまだまだデータが足りません。

災害の予報には現地の生データが不可欠ですが、それを苦労してとることの本当の大切さを今回の航海で知ることができたと、鳥羽瀬さんはおっしゃいました。

鳥羽瀬さんが在籍している九州大学、対流圏科学研究室は学生の約半数が観測を経験しており、三井さんの乗船された長崎丸にも乗船観測をしているひともいるそうです。

観測を行うことができる大学の講座が減るなか、なかなかに頼もしい研究生たちです。