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最北端のステーションは氷に覆われていたため、その南側に新たなステーションを設定した「みらい」は今度は次の目標、定点観測地点を目指して南下します。

ここで「みらい」は意外な航路を選びます。海氷が存在しない航路ではなく、あえて海氷が存在するかどうかわからない、衛星画像上の不明領域をぬけていったのです。

そこで「みらい」はこれまで見たことのない光景に囲まれました。

衛星だけではわからない海氷の分布

「みらい」が航路を選ぶ際、あるいは研究者が対象領域を選択する際に頼りにしているのが、衛星画像です。今回は JAXA の AMSR2 のデータを提供していただき、海氷の有無を毎日チェックしています。

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しかし、いかに衛星といってもすべての海域の海氷分布を正確に判別できるわけではありません。雲がかかっていることが多い北極では雲と氷を見分けるのが困難ですし、たとえ衛星では氷が無いようにみえても、船には危険な細かい氷塊が散らばっている可能性があります。

上の図で、白い部分は海氷があると判別された部分、海に色がついている部分は海氷が存在せず、海の温度がある程度分かる場所です。その間、ブルーで塗られた場所は「海氷があるのか、ないのか、わからない」という場所なのです。

そしてこの一ヶ月、チャクチ海の北には大きさにしておよそ四国ほどの氷がずっと漂っていて、最近になってようやく衛星では視認できないくらいにとけたところでした。しかし本当のところはどうなのでしょう?

多年氷の浮かぶ海

先日の最北端への航海で、海氷の程度がわかっていましたので、「みらい」はあえてこの海氷の存在がわからない海域を通り抜けることになりました。

予想通り、ゆくてには氷が現れ始め、しかも先日とはまるで違う、分厚い多数の氷塊によって「みらい」は囲まれました。

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先日の氷は薄いものが多かったのですが、今度は海の上につきだしている部分が多く、ときには何層もの氷の板が積み重なっているものもあります。これは氷同士がぶつかり、互いの上に折り重なった結果生まれた構造です。

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また、表面が汚れた氷も多数存在し、これはそれだけこの氷が長い時間北極を漂っていた「多年氷」であることを示しています。先の冬に生まれたばかりの氷、「一年氷」は真っ白で、こうした汚れがありません。

北極の最も寒いところを何年も、ときには10年以上も漂っている氷は、長い間に降り積もった雪、夏には表面がとけてさらにそれが凍るなどの履歴を経ています。

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今回こうして衛星で海氷の存在がわからない場所を通ることができたことには大きな意味があります。「海氷があるかわからない」という場所の Ground Truth、つまり「現場の実際の姿」をとらえ、海水の温度などをデータとして得ることができたおかげで、この情報を JAXA の研究者に提供することが可能なのです。

あるいはこの情報によって、海氷のアルゴリズムがさらに精緻化され、より精度の高い海氷判別が可能にならないとも限りません。そしてそれは、いずれ未来にやってくる「北極航路」のルート確保のための基礎的な情報となるのです。

氷に囲まれた「みらい」は、時には歩くほどの微速で繊細な操船を繰り返し、見事海氷の海域を光のある昼のうちにぬけることに成功しました。

次に目指すのは、2週間の定点観測が計画されている海域です。