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「みらい」北極航海に参加している研究者シリーズ、今日は海洋研究開発機構・研究員の大島和裕さんです。

大島さんは、高緯度における大気の熱・水収支という、漢字の字面だけでは若干イメージしにくい研究をされていますが、実は大気現象がなぜ起こるかを理解する上で基礎となる情報を追い求めています。

それでは、大島さん、よろしくどうぞ!

大島さんが北極、あるいは高緯度の研究をされるきっかけはなんでしたか?

私は、北大・環境科学院(当時の地球環境科学研究科)出身なのですが、お世話になっていた指導教官が、北極・高緯度の研究をされていたので、それが縁になってこの研究を始めました。北大だと、高緯度や寒冷地の研究をしている人が周囲に多かったのもありますね。

今回「みらい」の乗船で大気観測は初めてとうかがっていますが、観測はどうですか? キツいですか?

これまでにロシアのヤクーツクで地下水のサンプルをとる作業をしたり、北大演習林でのお手伝いなどはしてきたのですが、大気観測、しかも揺れる海の上での観測は初めてです。

一日8回の観測は3時間おきとはいえめまぐるしく、休んでいるひまがありません。しかし「みらい」船上では GODI (グローバル・オーシャン・ディベロップメント、みらいの運行・観測全般の補助をおこなっている会社です)の強力なサポートもありますので、なんとかこなせています。

船の揺れも最初は不安でしたけれども、しだいに慣れてきましたので、もともと観測経験がなかった私でもちゃんとこなせています。

今回の観測のデータを普段の研究でも利用される予定ですか?

私がこれまで行ってきた研究は、シベリヤや北極海上にどのように熱や水が運ばれるかというテーマです。そこでも、低気圧の存在が、大きな役割を演じていました。

今回は北極海の生のデータを手に入れることができたので、客観解析と呼ばれる、観測に基づいてコンピュータがつくりだしたデータと、実測のデータとがどのように一致するか、あるいは乖離しているかを調べることができると思います。

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熱・水収支というと、なんだかよくわからないと思いますが、銀行にたとえれば理解しやすくなります。

経済の単位はお金で、取引によって授受が行われようと、貯金されていようと、ひとりでに消えたり増えたりはしません(いや、しますけど細かい話は抜きにして…)。

自然現象における熱もそうです。熱は太陽から入り、地球の表面を温め、それが大気を温めて大気の流れを生み出し、やがて放射を通して宇宙に逃げていきます。さまざまなプロセスを経るものの、この収支はピタリとあっていないといけないのです。水にしても同じです。降った水は流れ、溜まり、蒸発し、また降りますが、その量は系として増えも減りもしません。

やっかいなのは、水は蒸発するとき潜熱を開放したりしますので、熱と水はひとまとまりとして収支を計算しなければいけません。それが熱・水収支なのです。

熱・水収支を理解することは、自然の物理系が破綻せずにどのように支えられているのかという基本を知ることでもありますが、正直なところ、データ不足や観測不足で、我々はその全容を知るには至っていないのです。

北極域はエネルギーが宇宙に逃げ出す、地球の冷却装置です。ここで熱がどのように振る舞うのかは、地球全体の熱と水のバランスを知る上でとても重要なのです。