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研究者紹介、二回目は長崎大学の修士2年生の三井拓さんです。

「みらい」には、海洋研究開発機構の研究者や、その他の研究所の研究者以外にも、大学院生なども乗船して研究活動を行っています。北極海に向かう航海は貴重ですから、研究者たちはさまざまにテーマを持ち寄り、相乗りで研究活動をしているわけです。

三井さんはそのなかでも、海洋研究開発機構の「研究生」という身分で乗船しています。大学と機構との共同研究を進めるための制度で、もし一般の学生が「みらい」に乗船して研究したいという場合に活用できます。

それでは三井さんよろしくどうぞ!

三井さんはどのような研究をしていらっしゃいますか?

私はノルウェーの北に存在するバレンツ海というところで発生する低気圧を、モデルを利用して再現するという研究をしています。

2012年に今回の航海の気象班のリーダー、猪上さんが発表された、バレンツ海における海氷の多寡が低気圧に影響を与え、それが遠く日本の気候にも変化を及ぼすという話題を面白いと思って、それをモデルで検証するという作業をしています。

元々は黒潮付近に発生する前線波動という小さな渦について研究をおこなっていましたが、北極海も黒潮と同様に海の温度に強い変化がある場所ですので、その海の上に発生する低気圧にも興味を持ちました。

なぜ今回「みらい」に乗船することにしたのですか?

長崎大には「長崎丸」という練習船があるのですが、私はこの船に学部4年生のころから乗船して、東シナ海で梅雨と黒潮の関係を調べる観測をした経験がありました。なので、観測航海の楽しさやキツさ、あるいは短い時間で人と仲良くなれるという航海ならではの良さも知っていました。

今回も、北極という新しいフィールドで同じような新しい経験ができると期待して乗船しました。

低気圧の何が魅力ですか?

航海で体験する低気圧は空間スケールとしては小さいのに、強風、波のような現象を引き起こして、そしてやがて大スケールの気象にまで影響します。こうした現象を、大きなスケールからとらえるのではなく、観測を通して実感として感じて、研究してゆくことに意義を感じています。

今回の観測では、データだけでなく、風や波の高さ、風景といった自分の体験もすべて持ち帰って、それをモデルで再現したり、観測データそのものから情報をぬきだす一連の作業ができることを楽しみにしています。

初めてやってきた北極の印象は?

肌で感じた北極はやはり「寒い」です。雲の様子も違いますし、海氷のように普段見ることができない現象もありますし、何もかもが新しい体験で、こうしたフィールドに身を置いて観測をする楽しさを実感しています。

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三井さんからお話をうかがっていて印象的だったのは、低気圧のことを「小さなスケール」と表現したことでした。

机の上のパソコンだけで気象学の解析をしていると、低気圧は基本的に日本の半分くらいを覆うことができる「総観規模」すなわち「大きなスケール」の現象だと考えがちです。

しかし低気圧には前線上に発生する小さなものや、強い寒気によって発生する寒冷渦などのように、衛星画像でもなかなか見分けがつかない小さなものも数多く存在します。三井さんが低気圧のことを「小さい」と表現したのは、彼にとっての低気圧のイメージが長崎丸での観測経験から来ているということでもあります。

長崎大では「観測にでたからにはキツくても最後まで頑張りぬいてデータをとる」という訓練を受けたという三井さん。こうして、自分が見たい現象のデータを自分の力で取ってくるという科学の基本を叩きこまれている学生さんが気象班にいるのはたいへん心強いことです。