こんにちは、2016年「みらい」北極航海の主席の西野です。

今年の「みらい」北極航海では、海氷減少に伴う北極海および周辺海域での海洋環境・海洋生態系の変化を明らかにすることを主な目的とし、海氷が最も後退する9月に北極海の観測を実施します。

本航海は北極域研究推進プロジェクト(ArCS: Arctic Challenge for Sustainability)の一環として実施しています。JAMSTECの他、国立極地研究所や国立環境研究所、北海道大学、東京海洋大学などからの研究者が参加し、大気・海洋から海底、物理・化学・生物に及ぶ幅広い総合的な観測をお互い連携しながら進めていきます。個々の観測については今後のブログで取り上げるとして、ここでは観測プランを紹介します。

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航海期間は、2016年8月22日(月)から10月5日(水)の45日間です。8月22日に八戸を出港し、10日間ほどかけて北太平洋・ベーリング海を通って北極海に向かいます。

北極海での観測がスタートするのは9月初めになります。北極海では20日間ほど滞在し各種観測を実施し、9月23日に米国アラスカ州にあるノームという町の沖合に停泊します。そこで一部が下船し、その後、ベーリング海・北太平洋を経由して10月4日に八戸、10月5日にJAMSTECむつ研究所に帰港します。

北極海に到着するまでの行きと北極海からの帰りで20日以上もかかるので、その間はさぞお暇でしょうと思う方もいらっしゃるでしょうが、決してそんなことはありません。行きの航路上では、測器のメンテナンスや動作確認、設定、採水器や分析器具の洗浄など観測準備を急ピッチで進めなくてはなりません。また、帰りはデータ整理やクルーズレポートの作成などに追われます。のんびり優雅な船旅気分は研究船では味わえません。

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さて、肝心の北極観測のプランですが、観測予定点がびっしりと並んでいますが、実際観測が行えるのは半分くらいです。

北極航海ならではのことですが、気象に加えて海氷の分布に観測航海が大きく左右されます。毎日海氷を避けて観測できる海域を模索します。

また、アラスカ沿岸では、毎年9月中ごろにイヌイットによる捕鯨が行われます。我々は捕鯨時期にはその海域を避けなければなりません。ですから、例年の航海では、毎日16時にキャプテン、クルー、研究者、観測技術員が気象・海氷情報や観測結果などを持ち寄って、翌日の計画についてミーティングをします。

この時、気象の研究者は「船上の気象予報士」となって明日の天気や風の吹き方などを予測します。ああでもないこうでもないと話すので、計画はその場では決まらないこともあります。

首席研究者である私は、みなさんの要望を取りまとめ、ミーティング後も計画を練ります。そして、翌日の観測に備えます。そんな毎日を過ごし、航海も終盤を迎えた頃、あらためて観測実施点の地図を作成してみると、航海でのハプニングや苦労などの思い出が走馬灯のように駆け巡ります。

今年はどんな航海になるのかな?期待と不安が交差しますが、航海全体として成功するように今年も頑張ってきたいと思います。

JAMSTEC西野

(図の説明: 調査海域の (a) 広域図と日本‐ベーリング海峡間の航路、および (b) 北極域 (ベーリング海以北)の拡大図。図 (a)において、航路 (実線)上では、ゾンデ、ドップラーレーダー、総合海上気象観測、飛沫観測、大気連続測定/大気サンプリング、MAX-DOAS (エアロゾル観測)、海鳥の目視調査、XCTD/UCTD観測、表層モニタリング/表層連続採水、地球物理観測等の大気・海洋・海底の航走観測を実施する。図 (b)において、航路 (実線)上、および観測点 (青丸)では CTD採水観測、光学観測、プランクトンネット、採泥観測、船上培養実験、係留系・セジメントトラップの設置・回収、波浪ブイの投入、スマートフロートの投入・回収、大気・海洋・海底の航走観測などを行う。また、赤色旗印は係留系設置・回収点、黄色の三角はセジメントトラップの設置・回収点を表す)