観測点の日時は、9月6日、北緯71度48分、西経155度23分。アラスカ州北端の町、バローの沖合にあるバロー海底渓谷におります。水温3度、気温2度ほど。

北極は夏真っ盛りです。人工衛生から見られた北極海の海氷は日々溶けて面積が狭くなっているように見えます。

本日までで観測はおおよそ1/3を過ぎた頃。海況にも恵まれ、観測は、これといった問題なく非常に順調に進んでおります。これまでのチュクチ海の水深は50 m前後だったのですが、このあたりから北極海は深くなって参ります。

そして、38番目の観測点、水深は180 mくらいのところでのことです。もくもくと、様々な項目の採水をこなしていたところ、

観測技術員Oさん 「採水班長、瓶にクリオネ入りました。」

採水班長Eさん「え゛!?」

採水者一同「おー!」

2016-26-2

採れちゃいました、クリオネ。通常は、一度で数トンの水の中のプランクトンを濾し集めてくるプランクトンネットをしても時折しか採取できないクリオネが、たった12リットルしか採れないニスキン採水器に入っておりました。

筆者、かれこれ10年以上、通算で1年以上船に乗っておりますが、初めての出来事です。

採れたクリオネは、実験室に持ち帰り、採水に参加していなかった方々にお披露目しました。さすがは流氷の天使、長々と続く分析に疲れが見え隠れしていた観測技術員の皆さんを笑顔にしてくれました。

クリオネさん、写真がお好きじゃ無いのか、瓶の底で横たわった状態の写真しか撮れませんでしたが、それでも何ともかわいらしいやつです。

ちなみに、クリオネは巻き貝の仲間で、ハダカカメガイ科という部類に属しています。カメガイ=亀貝。何故、亀かというと、巻き貝の仲間のくせに、ハダカカメガイ科の貝殻はカタツムリのようには巻いておらず、台形の箱のような形だからです。

さらに、クリオネは貝殻が退化しているため、見えません。

観測海域が深くなるにつれて生息する生き物が変わっているようです。次は何が採れるでしょうか。楽しみです。

杉江恒二(技術研究員) RCGC/IACE