大洋に浮かぶ船は波のなすがままです。揺れによって乗船者も船酔いになったりしますが、それ以上に危険なのは、備品や機材が動くことです。
なかには非常に重い機器もありますから、揺れによって倒れたり、床の上を滑ったりすることがないよう、すべてが固定されている必要があります。
それは身の回りのものにまでおよびます。船内をちょっと歩いてみて、揺れ対策をみてみることにしてみましょう。
縛り、滑り止めをし、鈎をかける
たとえば冒頭の写真は、調査指揮室という、サーバーなどが多数存在する部屋のパソコンですが、揺れても動いたり、倒れかかったりしないように下には滑り止め、マシンの間にはウレタンの詰め物がしてあり、全体がひもで縛られています。
置いてある机も端がせり上がっていますので、たとえ滑ることがあっても容易に落ちたりはしません。
こちらは本棚の写真ですが、揺れによって飛び出さないように留め具がしてあります。こうした留め具は床においてあるゴミ箱や、倒れやすい椅子にいたるまで、そこら中にしてあります。
こちらは先日も紹介した、椅子の足です。車輪はなく、倒れにくいようにしてあります。揺れが大きいと、倒れずに上の座面だけがくるくると回転します。
こちらは洗面台ですが、こうした細かいところにも対策は施してあります。生半可な留め具では開いてしまいますので、ちゃんと鈎がつけてあるのですね。
これ以外にもタンスの引き出しがとても固く作ってあったり、ドアにもフックがあったりと、船内どこをみても揺れ対策がみられます。
船の中の巨大な振り子。減揺装置
「みらい」は揺れに対して繊細な機材が備わっていたり、揺れによって船体が傾きすぎるとデータが乱れる機械も積んでいます。そこで船体内部に、揺れにあわせてそれを打ち消す方向に動く巨大な減揺装置も存在します。
頼もしい装置ですが、人間の船酔いを打ち消すためのものではありませんし、むしろ「みらい」の揺れはこの装置のために多少特殊なものになるらしく、かえって酔ってしまうという感想をもっている人もいます。
人間の揺れ対策は?
人間の側の揺れ対策は、基本的には「慣れること」と「酔い止め薬」しかありません。
船が揺れていると、まるで電車が急に止まった時のような力強い引っ張る感覚が、しかも前後、左右、上下のすべてにやってきます。
船が揺れていると、カーテンが自然に持ち上がり、時計は振り子のように左右にずれ、戸棚のうえの小物が滑っていき、椅子が自然に回転します。
船が揺れていると、人は斜めなって歩き、揺れを利用しながらパントマイムをしているように歩きます。映画「インセプション」をみたことある人なら、夢のなかのあのシーンによく似ていますね。
船が揺れていると、そこに立っているだけで体力は消耗し、一日の終りには筋肉が疲労しているのに驚き、思ってもいないところが痛みます。
船が揺れていると、多くの人は気分が悪くなり、あるいは頭が痛く、あるいは吐き気を我慢してつばを飲み込みます。
船が揺れていると、思考力はにぶり、集中力を保つのに苦労して、非番のときはひたすらベッドで横になりたくなります。
それでも、仕事は続くわけです。いつもこの環境で過酷な仕事をされている船員のみなさんを尊敬する一瞬です。
しかし、なにも死んだり気絶するほどひどいわけではありません。たいていの人は数日もたてば慣れてしまいます。慣れてみれば、揺れを利用しながら階段や廊下を歩くのも、そう悪くはありませんよ。